飛ぶ鳥の献立

珈琲と酒と本とぼんやりした何かでできている

墓と肉

あっさり更新が途切れましたが何故かというと昨日と一昨日は泥酔していたからです。

酒の力は習慣を超えるということをありがたくもなく実感しました。

今日もさっきまで友達と飲んでいましたが、なんとか酒に打ち勝ちました。1勝2敗。

 

 

引き続き東京に留まる三連休の初日、こちらにいるうちにと横浜にある祖父の墓を参った。

 

私が東京勤務かつ祖母も存命で蒲田に住んでいた頃は、よく二人でお参りしたものだった。

決まって最寄駅前にあるお花屋さんで花を買って、他愛もない話をしながら並んで歩いた。 

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今は無言の行路に彼女を追憶する。

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その祖母も昨年、祖父に直接会いに行ってしまった。 

誰も抗えない時の流れを思いながら10分ほど歩けば菩提寺に着いた。

備え付けの桶に水を溜める。

 

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水を入れすぎて盛大にこぼし、コートと靴が水浸しになった。

境内で着衣のまま水垢離をする怪しい女と思われかねない状況に、足早に墓地を目指す。

 

久しぶりの訪問であること、二日連続二日酔いであることを祖父に心の内で詫びながら墓を掃除しお線香と花を上げる。

 

私も関西に拠点を移してしまったし、 伯母も関西、母も千葉なので、ここにはもう誰も滅多に来ることができない。

誰も日常的に管理ができないという理由で祖母の骨はここではなく、伯母の元にある。

手を合わせてそのことを詫び、向こうで二人が再会できていることを祈る。

伯母一家も母もみんな元気だよ、と伝える。

 

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弔うとは、岸に立つようなものだな、と思う。

彼岸と此岸を分ける川を見つめ、無常の流れに想いを流し、色々な感情や現実に線を引く作業だ。

此岸にいる者は、線を何度も引くことで、こちら側にいる自分を受け入れる。

彼岸にただ祈るしかできない自分を見つめ、その祈りの中に、自分のなかに生き続ける相手を見つめ、それを自分の一部として、ともに生きていくことを受け入れる。

 

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私はかつて、自分が死んでも墓などはいらない、と思っていた。

きっと誰も岸に立ちには来ないだろうから、と。

けれど祖父と祖母がこうして眠る場所を分けたように、それは自分自身には予測しきれない領域だ。

 

駅へ戻る道で、往路では気づかなかった春告草が午後の光に映えて美しいのを見た。

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そんな出来事を共有したわけでもないのに、先ほどまで友人と酒を酌み交わしながら、老後の話をした。

彼が最近の仕事で関わった介護施設のこととか、私が知っている思いもよらないところで与えられてしまう死のこととか。

そして、「絶対的な死よりは相対的な生のほうが尊い」というような話をした。

死はどこまでも生のリフレクションでしかない。

 

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私の父はよく、自分が死んでも墓はいらない、と言う。

趣味で長年漁師をしているので、最期は海に散骨されたいと。

私はそれを聞くたび、いつか父のために岸に立つ時、そこにはなんの標もなく静かに生き続ける海があるだけの風景を思い描く。

 

 

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たとえば孤独死を惨めなものであるように言う人もいるが、私はあまりそうは思っていない。

老い方や死に方だけで決められることなどさして多くはない。

まして他人から見たそれなどは。

孤独の中で日々幸福に生きていた人もいるだろう。

たとえどんな黄昏であっても、そのあとに訪れる黄泉の色や形が知れなくても、ただ生きていたというその事実を言祝ぎながら、そして自分の中で生き続ける姿を思いながら、岸に立つ人でありたいと願う。

 

 

墓参の帰路、駅のKIOSK肉の万世の万かつサンド(好物)を見つけ、関西では売っていないというレア感に後押しされ買って帰った。

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パッケージに描かれた優しい豚の顔を見るたびに切なくなるところが好き。

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 おいしくいただきました。

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ラッキーミートという力強い概念を与えられながら。