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NHKスペシャル「私は家族を殺した “介護殺人” 当事者たちの告白」

取材力の高さにいつも感銘を受けながら見ているNHKスペシャル

 

7月3日放送のテーマは「私は家族を殺した “介護殺人”当事者たちの告白」。

 

www.nhk.or.jp

 

 

苦しみや葛藤の末に介護殺人に至ってしまい、その多くは現在も服役中、という方々へのインタビューを中心に構成された、あまりにも重くて悲しい49分。

泣かずにはどうしてもいられなかった。

 

 

忘れたくないので、内容を書いておく。

 

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・介護殺人の発生件数は、この6年間で136件。2週間に1回の割合で起こっている。

・介護を始めてから1年未満で事件に至るケースが最も多く、26%にのぼる。

・介護殺人に至ってしまった人のうち、デイサービスなどの介護サービスを「利用していた」と回答したのは75%と過半数である。

・介護経験者のうち、介護している相手を「手にかけたい」「一緒に死にたい」と思ったことが「ある」「ときどきある」と答えたのは24%(615人対象、うち回答者388人)。

・立場の弱い家族に負担が集中しがちという傾向がある。

・たった一人で介護を抱え込まざるを得ない状況について、

「自分だけが社会に取り残されているという恐怖感」

「子どもたちが居ても、忙しいことが分かっているから、私からも(助けてほしいと)云えない」

といった声が挙がっている。

 

 

 

長年連れ添った奥さんを、介護10か月目で殺害した男性。

「生きるのがつらい」と懇願され、その想いを尊重する形で事件に至った。

最後に、2人で毎年訪れていた阿蘇にドライブに行って、

「本当にいいね?」「後悔しないね?」と聞いて、

返ってきた返答は、「うん 確実に殺してね」だったという。

 

 

重度の認知症に罹っていた母親を介護していた兄弟。

お兄さんは勤めもあったため、弟さんが日中の介護の多くを担っていたようだ。

弟さんは、介護2か月目で母親を自らの手にかけた。

 

刑務所の面会所で、嗚咽を漏らしながら 

 

「私は母のことを、母の皮をかぶった化け物だと思っていた」

「どこにも逃げ先や行く当てがなかった」

「一番つらくて一番かわいそうなのは母本人だと思った」

「母を楽にしてやれるのは俺しかいないと決めて」

 

と語る。

 

「どうして弟さんが介護を担わなければならなかった?」という取材班の質問に、ただ一言、

 

「家族だからです」

 

と答え、面会所の扉の向こうに戻っていった。

 

 

認知症の妻の暴言に疲れ果て、衝動的に殺害に至ったという男性。

市の担当者と相談し介護保険制度を利用しようとしたものの、「要介護2」の壁で特別養護老人ホームへの入居は諦めざるを得なかったという。

民間施設は「とてもじゃないが 私たちの収入では入れない」「私しか面倒を見る人間はいなかった」。

デイサービスを週2~3回利用しながら、自宅での介護を続けていた。

デイサービスの職員さんも、電話がかかってくるたびに対応し、多いときは1日に5往復くらい通って相談に乗っていたという。

それでも男性は疲れ果ててしまい、ある日激しい口論の末、事件に至った。

 

 

仲良く穏やかな老後を送っていたが、寝たきりになってしまった妻に「殺してほしい」と頼まれて、事件を起こした男性。

亡き妻の遺影に手を合わせ、

 

「今が辛い」

「写真でないと会えないから」

 

と声を震わせて語る。

事件後、長男から電話で「おやじは許さん」と言われた。

「自分は妻を憎くてやったんじゃない」と語ったけれど、

長男は聞き入れてくれなかったという。

 

40歳から11年にわたって認知症の母親を介護している男性。

「親子心中や自殺を考えるようになった」と語る。

最初は奥さんに介護を任せていたが、やがて離婚。

以来、会社も辞めて一人で介護を続けているという。

勤めていた頃に着ていたスーツには、いつの間にか黴が生えていた。

 

「根本的な所で言うと、一番つらいのは、やっぱり自由がないこと」

「手足を鎖でつながれた 牢獄にいるような感覚」

「介護ロボットみたい」

 

と語る。

 

ある時母親が脳梗塞で倒れたが、救急車を呼ぶことを咄嗟にためらったことがあった。

ただ、呆然と見つめるしかできなかったという。

その時のことは強く悔いていると振り返りながらも、

介護殺人に至ってしまった人について思うところはただ、

 

「やっと介護が終わりましたね」

「お疲れさま」

 

だという。

 

「良かったですね、とも言えないし…ただ、終わりましたね、と言いたい」

「もちろん、罪は償わないといけないですけれど…それよりも何よりもまず、『ああ、介護が終わりましたね』『終わったんですね』、と」

 

 

 

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私はかなり以前から安楽死合法化を望んでいるけれど無論単純にそれだけではなく、介護問題には確実に、「制度で解決できる範囲」と、「解決できない範囲」があると思っている。

 

 

後者は、社会保障制度の範囲的限界、民間サービスの構造的限界、というだけでなく、「家族」という言葉に象徴される、きわめてパーソナルな要素も含まれると思う。

それはきっと、「正解」も「絶対に後悔しない選択肢」もない世界なのだと思う。

 

 

公民いずれの制度においてもそれぞれに壁があるなかで、相互扶助的な仕組みをどのように改善できて、それはどこまで何を救えるのか。

 

正解のない苦しさのなかで、どこに「心の逃げ場」を作るべきなのか。

 

 

いつか「介護から逃げられない自分」になる前に、そしてなった時に、これらの問いにどう向き合うべきかを考えるうえで、こうした事件の背景に当事者達のどのような葛藤や苦しみがあったのかを知っておくことがとても重要なのではないかと思った。 

 

再放送は、7月13日(水)午前0時10分~0時59分(12日深夜)。

 

内容の大半を書き起こした形になってしまったけれど、

介護殺人に至ってしまった方々の語る声や、介護日記の筆跡を、聞いて、見てほしいと私は思う。